top of page
執筆者の写真garimpeiroma

第三話「クリスマスの香り」

~人生は旅である。その旅路で出会う様々な香り。ふと、ある香りを嗅いだ時、思い出される記憶がある。そんな香りにまつわるショート・ストーリー。~


タイにも寒い時期はある。クリスマス前後の1週間位は、窓を閉め、長袖を着こむ事がある。北の都市チェンマイでは、セーターを着たり、マフラーを巻く人もいたりする。こういう時期になると、友人と鍋を囲んだりしたものだ。鍋の具材にはパクチーが入ったりする。最近は日本でもパクチーブームだが、パクチーの入った鍋も美味である。これはなかなか癖になる味で、パクチーの香りが食欲をそそる。

タイのクリスマスは日本よりも華やかで、色とりどりの電飾が街をきらびやかに演出する。私が住んでいたアパートは外国人向けの住居だったが、この時期はクリスマスパーティーがあちこちの部屋である。バックグラウンドの違う各国の人々が集うパーティーは、中々楽しかった。私の隣人のベルギー育ちのシンガポーリアンの部屋に行くと、クリスマスツリーの代わりに、フエルトで作ったタペストリーのクリスマスツリーが飾ってあり、シンプルな中にもほっこりとした素朴さがあって素敵だった。

オーストラリアには2年弱いた。こちらは南半球なので夏のクリスマス。屋外でのパーティーも多い。私のホストはポーランドの女性で、彼女はよくビーツスープを作ってくれた。ビーツとは赤カブで、ロシアの伝統料理のボルシチにも使われる根菜のこと。このビーツの缶詰を煮詰めて作ったスープは、目にも鮮やかなピンク色で爽やかな酸味がある。これにじゃがいもや、ゆで卵を入れて食べる。日本では中々見かけない食材だが、「ポーランドではクリスマスにも食べるのよ」とホストが言っていた。クリスマスには、彼女の友人が家に集まりクリスマスパーティーが開かれた。ホストはどこからかガサゴソとクリスマス用の食器や飾りをひっぱり出してきて、二人でパーティーの準備をしたものだ。

どこの国にいてもクリスマスや年の瀬は、その一年を振り返り、新しい年を迎える華やいだ空気がある。そんな季節にふさわしいのが、気持ちを前向きにし、幸福感を与えるオレンジの香り。クリスマスにはオレンジポマンダーを良く作った。オレンジにクローブを刺し、シナモンをまぶして作る夢のような香りのポプリ。ヨーロッパではかつて厄除けや抗菌として用いられた。タイでもオーストラリアでもオレンジは手に入りやすい。これは作っている時に甘く夢見るような香りがして、幸せな気持ちになる。

今年もオレンジポマンダーを作りながら、過去をあたたかく振り返り、来たるべき年に思いを馳せている。

閲覧数:26回0件のコメント

最新記事

すべて表示

第四話「地球の裏側からの香り」

~人生は旅である。その旅路で出会う様々な香り。ふと、ある香りを嗅いだ時、思い出される記憶がある。そんな香りにまつわるショート・ストーリー。~ ここは「世界一空気のきれいなところ」といわれている。地球儀の下の方にある南の小さな島、それがタスマニアだ。シドニーから約240キロ南...

Comments


bottom of page